仙人
芥川龍之介

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)私《わたし》は今大阪にいます

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一時|逃《のが》れに

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ](大正十一年三月)
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 皆さん。
 私《わたし》は今大阪にいます、ですから大阪の話をしましょう。
 昔、大阪の町へ奉公《ほうこう》に来た男がありました。名は何と云ったかわかりません。ただ飯炊奉公《めしたきぼうこう》に来た男ですから、権助《ごんすけ》とだけ伝わっています。
 権助は口入《くちい》れ屋《や》の暖簾《のれん》をくぐると、煙管《きせる》を啣《くわ》えていた番頭に、こう口の世話を頼みました。
「番頭さん。私は仙人《せんにん》になりたいのだから、そう云う所へ住みこませて下さい。」
 番頭は呆気《あっけ》にとられたように、しばらくは口も利《き》かずにいました。
「番頭さん。聞えませんか? 私は仙人になりたいのだから、そう云う所へ住みこませて下さい。」
「まことに御気の毒様ですが、――」
 番頭はやっといつもの通り、
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