手巾
芥川龍之介
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)籐椅子《とういす》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)朝鮮|団扇《うちは》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から2字上げ](大正五年九月)
−−
東京帝国法科大学教授、長谷川謹造先生は、ヴエランダの籐椅子《とういす》に腰をかけて、ストリントベルクの作劇術《ドラマトウルギイ》を読んでゐた。
先生の専門は、植民政策の研究である。従つて読者には、先生がドラマトウルギイを読んでゐると云ふ事が、聊《いささか》、唐突の感を与へるかも知れない。が、学者としてのみならず、教育家としても、令名《れいめい》ある先生は、専門の研究に必要でない本でも、それが何等かの意味で、現代学生の思想なり、感情なりに、関係のある物は、暇のある限り、必《かならず》一応は、眼を通して置く。現に、昨今は、先生の校長を兼ねてゐる或高等専門学校の生徒が、愛読すると云ふ、唯、それだけの理由から、オスカア・ワイルドのデ・プロフンデイスとか、インテンシヨンズとか云ふ物さへ、一読の労を執つた。さう云ふ
次へ
全17ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
芥川 竜之介 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング