おなぶ》りになった上、二度と再び御膝元へもよせつけないようになすってしまいました。
七
でございますからこの御姫様に、想《おもい》を懸けていらしった方々《かたがた》の間には、まるで竹取《たけとり》物語の中にでもありそうな、可笑《おか》しいことが沢山ございましたが、中でも一番御気の毒だったのは京極《きょうごく》の左大弁様《さだいべんさま》で、この方《かた》は京童《きょうわらんべ》が鴉《からす》の左大弁などと申し上げたほど、顔色が黒うございましたが、それでもやはり人情には変りもなく、中御門《なかみかど》の御姫様を恋い慕っていらっしゃいました。所がこの方は御利巧だと同時に、気の小さい御性質だったと見えまして、いかに御姫様を懐《なつか》しく思召しても、御自分の方からそれとは御打ち明けなすった事もございませんし、元よりまた御同輩の方にも、ついぞそれらしい事を口に出して、仰有《おっしゃ》った例《ためし》はございません。しかし忍び忍びに御姫様の御顔を拝みに参ります事は、隠れない事でございますから、ある時、それを枷《かせ》にして、御同輩の誰彼が、手を換え品を換え、いろいろと問い落
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