かの雑誌の編輯者《へんしゅうしゃ》に、さぞ迷惑をかけたろうと思うと、実際いい気はしない。
○これからは、作ができてから、遣《つか》うものなら遣ってもらうようにしたいと思う。とうからもそう思っていたが、このごろは特にその感が深い。
○そうして、ゆっくり腰をすえて、自分の力の許す範囲で、少しは大きなものにぶつかりたい。計画がないでもないが、どうも失敗しそうで、逡巡《しゅんじゅん》したくなる。アミエルの言ったように、腕だめしに剣を揮《ふ》ってみるばかりで、一度もそれを実際に使わないようなことになっては、たいへんだと思う。
○絶えず必然に、底力強く進歩していかれた夏目先生を思うと、自分のいくじないのが恥かしい。心から恥かしい。
○文壇は来るべきなにものかに向かって動きつつある。亡《ほろ》ぶべき者が亡びるとともに、生まるべき者は必ず生まれそうに思われる。今年は必ず何かある。何かあらずにはいられない、僕らは皆小手しらべはすんだという気がしている。(以上新思潮第二年第一号)
[#地から2字上げ](大正五年三月―大正六年一月)



底本:「羅生門・鼻・芋粥」角川文庫、角川書店
   1950(昭和2
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