校正後に
芥川龍之介

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)酒虫《しゅちゅう》

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(例)[#地から2字上げ](大正五年三月―大正六年一月)
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○僕はこれからも今月のと同じような材料を使って創作するつもりである。あれを単なる歴史小説の仲間入をさせられてはたまらない。もちろん今のがたいしたものだとは思わないが。そのうちにもう少しどうにかできるだろう。(新思潮創刊号)
○酒虫《しゅちゅう》は材料を聊斎志異《りょうさいしい》からとった。原《もと》の話とほとんど変わったところはない。(新思潮第四号)
○酒虫は「しゅちゅう」で「さかむし」ではない。気になるから、書き加える。(新思潮第六号)
○僕は新小説の九月号に「芋粥《いもがゆ》」という小説を書いた。
○まだあき地があるそうだから、もう少し書く。松岡の手紙によると、新思潮は新潟《にいがた》県にまじめな読者をかなり持っているそうだ。そうしてその人たちの中には、創作に志している青年も多いそうだ。ひとり新思潮のためのみならず、日本のためにも、そういう人たちの多くなることを祈りたい。もし同人のうぬぼれが、単にうぬぼれにとどまらない以上は。
○僕の書くものを、小さくまとまりすぎていると言うて非難する人がある。しかし僕は、小さくとも完成品を作りたいと思っている。芸術の境に未成品はない。大いなる完成品に至る途《みち》は、小なる完成品あるのみである。流行の大なる未成品のごときは、僕にとって、なんらの意味もない。(以上新思潮第七号)
○「煙草《たばこ》」の材料は、昔、高木さんの比較神話学を読んだ時に見た話を少し変えて使った。どこの伝説だか、その本にも書いてなかったように思う。
○新小説へ書いた「煙管《きせる》」の材料も、加州藩の古老に聞いた話を、やはり少し変えて使った。前に出した「虱《しらみ》」とこれと、来月出す「明君」とは皆、同じ人の集めてくれた材料である。
○同人は皆、非常に自信家のように思う人があるが、それは大ちがいだ。ほかの作家の書いたものに、帽子をとることも、ずいぶんある。なんでもしっかりつかまえて、書いてある人を見ると、書いていることはしばらく問題外に置いて、つかまえ方、書き方のうまいのには、敬意を表せずにはいられないことが多い。(そういう人は、自
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