孔雀
芥川龍之介

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)伊曾保《いそぽ》
−−

 これは異本「伊曾保《いそぽ》の物語」の一章である。この本はまだ誰も知らない。
「或《ある》鴉《からす》おのれが人物を驕慢《けうまん》し、孔雀《くじやく》の羽根を見つけて此処かしこにまとひ、爾余《じよ》の諸鳥《しよてう》をば大きに卑《いや》しめ、わが上《うへ》はあるまじいと飛び廻れば、諸鳥安からず思ひ、『なんぢはまことの孔雀でもないに、なぜにわれらをおとしめるぞ』と、取りまはいてさんざんに打擲《ちやうちやく》したれば、羽根は抜かれ脚は折られ、なよなよとなつて息が絶えた。
「その後《のち》またまことの孔雀が来たに、諸鳥はこれも鴉ぢやと思うたれば、やはり打ちつ蹴《け》つして殺してしまうた。して諸鳥の云うたことは、『まことの孔雀にめぐり遇《あ》うたなら、如何《いか》やうな礼儀をも尽さうずるものを。さてもさても世の中には偽《に》せ孔雀ばかり多いことぢや。』
「下心《したごころ》。――天下《てんか》の諸人《しよにん》は阿呆《あはう》ばかりぢや。才《さえ》も不才《ふさえ》もわかることではござ
次へ
全2ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
芥川 竜之介 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング