唐ーて主人の健康を祝するや、ユウゴオ傍《かたはら》なるフランソア・コツペエを顧みて云ふやう、「今この席上なる二詩人|迭《たがひ》に健康を祝さんとす。亦《また》善からずや」と。意コツペエが為に乾杯せんとするにあり。コツペエ辞して云ふ、「否、否、座間《ざかん》詩人は唯|一人《いちにん》あるのみ」と。意詩人の名に背《そむ》かざるものは唯ユウゴオ一人《いちにん》のみなるを云ふなり。時に「オリアンタアル」の作者、忽ち破顔して答ふるやう、「詩人は唯|一人《いちにん》あるのみとや。善し、さらば我は如何《いかに》」と。意コツペエが言を翻《ひるがへ》しておのが仰損を示せるなり。曰く「僧院の秋」の会、曰く「三浦《みうら》製糸場主」の会、曰く猫の会、曰く杓子《しやくし》の会、方今《はうこん》の文壇会|甚《はなはだ》多しと雖《いへど》も、未《いまだ》滑脱《くわつだつ》の妙を極めたる、斯《か》くの如き応酬ありしを聞かず。傍《かたはら》に人あり。嗤《わら》つて云ふ、「請ふ、隗《くわい》より始めよ」と。(二月二十七日)
白雨禅
狩野芳涯《かのうはうがい》常に諸弟子《しよていし》に教へて曰《いはく》、
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