て、私の作品集を手にすべき一人の読者のある事を。さうしてその読者の心の前へ、朧げなりとも浮び上る私の蜃気楼のある事を。
 私は私の愚を嗤笑《しせう》すべき賢達の士のあるのを心得てゐる。が、私自身と雖も、私の愚を笑ふ点にかけては、敢て人後に落ちやうとは思つてゐない。唯、私は私の愚を笑ひながら、しかもその愚に恋々たる私自身の意気地なさを憐れまずにはゐられないのである。或は私自身と共に意気地ない一般人間をも憐れまずにはゐられないのである。



底本:「芥川龍之介全集 第四巻」岩波書店
   1996(平成8)年2月8日発行
底本の親本:「點心」金星堂
   1922(大正11)年5月20日発行
初出:「東京日日新聞」
   1919(大正8)年7月27日
入力:大久保ゆう
校正:小林繁雄
2003年9月5日作成
青空文庫作成ファイル:
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