疑惑
芥川龍之介
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)実践倫理学《じっせんりんりがく》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)ある年の春|私《わたくし》は
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「火+主」、第3水準1−87−40]
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今ではもう十年あまり以前になるが、ある年の春|私《わたくし》は実践倫理学《じっせんりんりがく》の講義を依頼されて、その間《あいだ》かれこれ一週間ばかり、岐阜県《ぎふけん》下の大垣町《おおがきまち》へ滞在する事になった。元来地方有志なるものの難有《ありがた》迷惑な厚遇に辟易《へきえき》していた私は、私を請待《せいだい》してくれたある教育家の団体へ予《あらかじ》め断りの手紙を出して、送迎とか宴会とかあるいはまた名所の案内とか、そのほかいろいろ講演に附随する一切の無用な暇つぶしを拒絶したい旨希望して置いた。すると幸《さいわい》私の変人だと云う風評は夙《つと》にこの地方にも伝えられていたものと見えて、やがて私
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