ほゝけたる花ふり落す大川楊《おほかはやなぎ》。水にしも恋やするらむ大川楊。
香油よりつめたき雨にひたもぬれつゝ。たそがれの銀座通をゆくは誰が子ぞ。
恋すてふ戯れすなる若き道化は。かりそめの涙おとすを常とするかも。
何時となく恋もものうくなりにけらしな。移り香の(憂しや)つめたくなりまさる如。
[#地付き](※[#ローマ数字IX、1−13−29] ※[#ローマ数字X、1−13−30]※[#ローマ数字V、1−13−25] ※[#ローマ数字X、1−13−30]※[#ローマ数字IV、1−13−24])
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砂上遅日
うつゝなきまひるのうみは砂のむた雲母《きらゝ》のごとくまばゆくもあるか
八百日ゆく遠の渚は銀泥《ぎんでい》の水ぬるませて日にかゞやくも
きらゝかにこゝだ身動《みぢろ》ぐいさゝ波砂に消《け》なむとするいさゝ波
いさゝ波|生《あ》れも出でねと高天《たかあめ》ゆ光はちゞにふれり光は
光輪《くわうりん》は空にきはなしその空の下につどへる蜑《あま》少女はも
むらがれる海女《あま》らことごと恥なしと空はもだしてかゞやけるかも
うつそみの女人眠るとまかゞよふ巨海《こかい》は息をひそむらむかも
荘厳《しやうごん》の光の下にまどろめる女人の乳こそくろみたりしか
いさゝ波かゞよふきはみはろばろと弘法麦の葉は照りゆらぎ
きらゝ雲むかぶすきはみはろばろと弘法麦の葉は照りゆらぎ
雲の影おつるすなはちふかぶかと弘法麦は青みふすかも
雲の影さかるすなはちはろばろと弘法麦の葉は照りゆらぎ
底本:「芥川龍之介全集 第一巻」岩波書店
1995(平成7)年11月8日発行
入力:もりみつじゅんじ
校正:本木まゆみ
1999年7月18日公開
2004年2月9日修正
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