醒《かくせい》したり。我ら十七名の会員はこの問答の真なりしことを上天の神に誓って保証せんとす。(なおまた我らの信頼するホップ夫人に対する報酬《ほうしゅう》はかつて夫人が女優たりし時の日当《にっとう》に従いて支弁したり。)

        一六

 僕はこういう記事を読んだ後《のち》、だんだんこの国にいることも憂鬱《ゆううつ》になってきましたから、どうか我々人間の国へ帰ることにしたいと思いました。しかしいくら探《さが》して歩いても、僕の落ちた穴は見つかりません。そのうちにあのバッグという漁夫《りょうし》の河童の話には、なんでもこの国の街《まち》はずれにある年をとった河童が一匹、本を読んだり、笛《ふえ》を吹いたり、静かに暮らしているということです。僕はこの河童に尋ねてみれば、あるいはこの国を逃げ出す途《みち》もわかりはしないかと思いましたから、さっそく街はずれへ出かけてゆきました。しかしそこへ行ってみると、いかにも小さい家の中に年をとった河童どころか、頭の皿も固まらない、やっと十二三の河童が一匹、悠々《ゆうゆう》と笛を吹いていました。僕はもちろん間違《まちが》った家へはいったではないかと
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