まん中へねじ伏せました。小さい河童は水掻《みずか》きのある手に二三度|空《くう》をつかんだなり、とうとう死んでしまいました。けれどももうその時には雌の河童はにやにやしながら、大きい河童の頸《くび》っ玉へしっかりしがみついてしまっていたのです。
僕の知っていた雄《おす》の河童《かっぱ》はだれも皆言い合わせたように雌《めす》の河童に追いかけられました。もちろん妻子を持っているバッグでもやはり追いかけられたのです。のみならず二三度はつかまったのです。ただマッグという哲学者だけは(これはあのトックという詩人の隣にいる河童です。)一度もつかまったことはありません。これは一つにはマッグぐらい、醜い河童も少ないためでしょう。しかしまた一つにはマッグだけはあまり往来へ顔を出さずに家《うち》にばかりいるためです。僕はこのマッグの家へも時々話しに出かけました。マッグはいつも薄暗《うすぐら》い部屋《へや》に七色《なないろ》の色硝子《いろガラス》のランタアンをともし、脚《あし》の高い机に向かいながら、厚い本ばかり読んでいるのです。僕はある時こういうマッグと河童の恋愛を論じ合いました。
「なぜ政府は雌の河童が
前へ
次へ
全86ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
芥川 竜之介 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング