に相《あい》すみません。実はこの旦那《だんな》の気味悪がるのがおもしろかったものですから、つい調子に乗って悪戯《いたずら》をしたのです。どうか旦那も堪忍《かんにん》してください。」

        三

 僕はこの先を話す前にちょっと河童というものを説明しておかなければなりません。河童はいまだに実在するかどうかも疑問になっている動物です。が、それは僕自身が彼らの間に住んでいた以上、少しも疑う余地はないはずです。ではまたどういう動物かと言えば、頭に短い毛のあるのはもちろん、手足に水掻《みずか》きのついていることも「水虎考略《すいここうりゃく》」などに出ているのと著しい違いはありません。身長もざっと一メエトルを越えるか越えぬくらいでしょう。体重は医者のチャックによれば、二十ポンドから三十ポンドまで、――まれには五十何ポンドぐらいの大河童《おおかっぱ》もいると言っていました。それから頭のまん中には楕円形《だえんけい》の皿《さら》があり、そのまた皿は年齢により、だんだん固《かた》さを加えるようです。現に年をとったバッグの皿は若いチャックの皿などとは全然手ざわりも違うのです。しかし一番不思議な
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