取っていた Quorax 党内閣のことなどを話しました。クオラックスという言葉はただ意味のない間投詞《かんとうし》ですから、「おや」とでも訳すほかはありません。が、とにかく何よりも先に「河童全体の利益」ということを標榜《ひょうぼう》していた政党だったのです。
「クオラックス党を支配しているものは名高い政治家のロッペです。『正直は最良の外交である』とはビスマルクの言った言葉でしょう。しかしロッペは正直を内治《ないち》の上にも及ぼしているのです。……」
「けれどもロッペの演説は……」
「まあ、わたしの言うことをお聞きなさい。あの演説はもちろんことごとく※[#「言+墟のつくり」、第4水準2−88−74]《うそ》です。が、※[#「言+墟のつくり」、第4水準2−88−74]ということはだれでも知っていますから、畢竟《ひっきょう》正直と変わらないでしょう、それを一概に※[#「言+墟のつくり」、第4水準2−88−74]と言うのはあなたがただけの偏見ですよ。我々|河童《かっぱ》はあなたがたのように、……しかしそれはどうでもよろしい。わたしの話したいのはロッペのことです。ロッペはクオラックス党を支配している、そのまたロッペを支配しているものは Pou−Fou 新聞の(この『プウ・フウ』という言葉もやはり意味のない間投詞《かんとうし》です。もし強《し》いて訳すれば、『ああ』とでも言うほかはありません。)社長のクイクイです。が、クイクイも彼自身の主人というわけにはゆきません。クイクイを支配しているものはあなたの前にいるゲエルです。」
「けれども――これは失礼かもしれませんけれども、プウ・フウ新聞は労働者の味かたをする新聞でしょう。その社長のクイクイもあなたの支配を受けているというのは、……」
「プウ・フウ新聞の記者たちはもちろん労働者の味かたです。しかし記者たちを支配するものはクイクイのほかはありますまい。しかもクイクイはこのゲエルの後援を受けずにはいられないのです。」
ゲエルは相変わらず微笑しながら、純金の匙《さじ》をおもちゃにしています。僕はこういうゲエルを見ると、ゲエル自身を憎むよりも、プウ・フウ新聞の記者たちに同情の起こるのを感じました。するとゲエルは僕の無言にたちまちこの同情を感じたとみえ、大きい腹をふくらませてこう言うのです。
「なに、プウ・フウ新聞の記者たちも全部労働者の
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