う事は、あなたの見た夢といくらも変っているものではありません。これであなたの人生の執着《しゅうじゃく》も、熱がさめたでしょう。得喪《とくそう》の理も死生の情も知って見れば、つまらないものなのです。そうではありませんか。」
盧生《ろせい》は、じれったそうに呂翁の語《ことば》を聞いていたが、相手が念を押すと共に、青年らしい顔をあげて、眼をかがやかせながら、こう云った。
「夢だから、なお生きたいのです。あの夢のさめたように、この夢もさめる時が来るでしょう。その時が来るまでの間、私《わたし》は真に生きたと云えるほど生きたいのです。あなたはそう思いませんか。」
呂翁は顔をしかめたまま、然《しか》りとも否《いな》とも答えなかった。
[#地から1字上げ](大正六年十月)
底本:「芥川龍之介全集2」ちくま文庫、筑摩書房
1986(昭和61)年10月28日第1刷発行
1996(平成8)年7月15日第11刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房
1971(昭和46)年3月〜1971(昭和46)年11月
入力:平山誠、野口英司
校正:もりみつじゅんじ
1997年11月10日公開
2004年3月12日修正
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