い》が、この時、ふと思いついたように、主《あるじ》の陶器師《すえものつくり》へ声をかけた。
「不相変《あいかわらず》、観音様《かんのんさま》へ参詣する人が多いようだね。」
「左様でございます。」
陶器師《すえものつくり》は、仕事に気をとられていたせいか、少し迷惑そうに、こう答えた。が、これは眼の小さい、鼻の上を向いた、どこかひょうきんな所のある老人で、顔つきにも容子《ようす》にも、悪気らしいものは、微塵《みじん》もない。着ているのは、麻《あさ》の帷子《かたびら》であろう。それに萎《な》えた揉烏帽子《もみえぼし》をかけたのが、この頃評判の高い鳥羽僧正《とばそうじょう》の絵巻の中の人物を見るようである。
「私も一つ、日参《にっさん》でもして見ようか。こう、うだつ[#「うだつ」に傍点]が上らなくちゃ、やりきれない。」
「御冗談《ごじようだん》で。」
「なに、これで善い運が授《さず》かるとなれば、私だって、信心をするよ。日参をしたって、参籠《さんろう》をしたって、そうとすれば、安いものだからね。つまり、神仏を相手に、一商売をするようなものさ。」
青侍は、年相応な上調子《うわちょうし》なもの
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