にしるべありてひきこしける。兵右衛門《へいゑもん》がかたにはかゝることゝは露しらず、本妻と下女《げぢよ》が修羅《しゆら》の苦患《くげん》をたすけんと御出家《ごしゆつけ》がたの金儲《かねまう》けとなりけるとなり。」
 この話は珍しき話にあらず。鈴木正三《すずきしやうざう》の同一の怪談を発見し得べし。唯|北※[#「王+睿」、第3水準1−88−34]《ほくせん》はこの話に現実主義的なる解釈を加へ、超自然を自然に翻訳《ほんやく》したり。そはこの話に止《とどま》らず、安珍《あんちん》清姫《きよひめ》の話を翻訳したる「紀州《きしう》日高《ひだか》の女|山伏《やまぶし》を殺す事」も然り、葛《くず》の葉《は》の話を翻訳したる、「畜類人と契《ちぎ》り男子《をのこ》を生む事」も然り。鉄輪《かなわ》の話を翻訳したる「妬女貴布禰明神《とぢよきぶねみやうじん》に祈る事」も然り。殊に最後の一篇は嫉妬の鬼《おに》にならんと欲せる女、「こは有《あり》がたきおつげかな。わが願《ぐわん》成就《じやうじゆ》とよろこび、其まま川へとび入りける」も、「ころしも霜月《しもつき》下旬の事なれば、(中略)四方《よも》は白たへの雪にう
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