隅に一本細い桐があるだけである。

×

 私の詩のあるものはこの頃一層短篇的なものになつた。さうした傾向は内容や形態から考へれば、事実詩から離れかけてゐることになるかも知れないが、それは言葉の上でのことで、私の持つてゐる詩から離れてゆかうとしてゐるのではない。
「短篇」と言つても、所謂短篇なるものの総称ではなくそれにふくまれるものの一つであつて、当然生れ出て来なければならないものである。
 わづかばかりの頁のところでこんなことを書くつもりではなかつたが、このことをながながと書いても興がない。又、私の短篇と自称する作品を詩であるとしか考へられない人達には、私の短篇が詩にふくまれるものであつて、その仕事が十分にしつくされてゐるのではないしその作品には何の変りもないのだからそれでよいことにしや[#「や」に「ママ」の注記]う。たゞ私が詩よりも短篇の方が格が上だと思つてゐるのではないことや、夢を見てゐるのではないことだけは断つておきたい。

×

 又、雨が降つてゐる。昨日から私は部屋に白い蓮の掛図をかけてゐる。夜になつて雨が強くなつた。蓮の胡紛が昼月のやうに浮いてゐる。

 とよ[#「とよ」に傍点]がまがつてゐるので、又壁に雨がしみてきた。雨の中に電車の走つてゐる音が時をりする。
 寝床に入つても雨の音が聞えるだらうと思ふと、なんだか床に入りたくない。
[#地付き](一九二八・三―)
[#地付き](全詩人聯合創刊号 昭和3年4月発行)



底本:「尾形亀之助詩集」現代詩文庫、思潮社
   1975(昭和50)年6月10日初版第1刷
   1980(昭和55)年10月1日第3刷
初出:「全詩人聯合 創刊号」
   1928(昭和3)年4月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:高柳典子
校正:鈴木厚司
2006年9月12日作成
青空文庫作成ファイル:
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