茶と
これは――
カステーラのよ[#「よ」に「ママ」の注記]うに
明るい夜だ
散歩
とつぴな
そして空想家な育ちの心は
女に挨拶をしてしまつた
たしかに二人は何処かで愛しあつたことがあつた筈だと言ふのですが
そのつれの男と言ふのが口髭などをはやして
子供だと思つて油断をしてゐたカフヱーのボーイにそつくりなのです
音のしない昼の風景
工場の煙突と それから
もう一本遠くの方に煙突を見つけて
そこまで引いていつた線は
唖が 街で
唖の友達に逢つたよ[#「よ」に「ママ」の注記]うな
十二月の無題詩
十二月のダンダラ
――DANDARA
それは
少女の黄色い腰をつつむ
一ペンのネル[#「ネル」に傍点]である
×
穴のあいたよ[#「よ」に「ママ」の注記]うな
十二月の昼の曇天に
私はうつかり相手に笑ひかける
春
(春になつて私は心よくなまけてゐる)
私は自分を愛してゐる
かぎりなく愛してゐる
このよく晴れた
春――
私は空ほどに大きく眼を開いてみたい
そして
書斎は私の爪ほどの大きさもなく
掌に春をのせて
驢馬に乗つて街へ出かけて行きたい
題のない詩
話はありませんか
――やせた女の……
で
やせた女は慰めもなく
肌も寂しく襟をつくろひます
ありませんか――
ありませんか――
静かに
夕方ににじむやせた女の
――話は
夜の庭へ墜ちた煙草の吸ひがら
夜る[#「る」に「ママ」の注記]
少し風があつたので
私はうつかり二階の窓からすてた煙草の吸ひがらが気がかりになりました
―――――――
ねづ[#「づ」に「ママ」の注記]みの糞を庭に埋めたら豆が生え
そして
のびのび のびあがつて雲の上で花が咲いて実がなつた
そして
実がはじけて地べたにころがり落ちた
―――――――
それが
今――
私の捨てた火のついた煙草の吸ひがらだつたのです
昼の部屋
女は 私に白粉の匂ひをかがさうとしてゐるらしい
――女・女
(スプーンがちよつと鉛臭いことがありますが それとはちがひますか)
午後の陽は ガラス戸越に部屋に溜つて
そとは明るい昼なのです
夜半 私は眼さめてゐる
さびた庖丁で 犬の吠え声を切りに
月夜の庭に立ちすくむ――
×
これは きつと病気だ
あの女の顔が青かつた
キツスから うつつた
前へ
次へ
全16ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
尾形 亀之助 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング