は、ためいきをついて、おじいさんの顔を見つめました。
「これから取りに帰っては、ほかの子どものところへまわれないし、さて、どうしたらいいだろうな。」
「僕がとりにいきましょうか。」と、イヌが言いました。「僕もネコも早い四本足がありますよ。」
「だめだだめだ。わしのうちはとおいとおい空の上なんだから、四本足だろうが六本足だろうが、これから行って、あけがたまでに帰って来ることはとても出来ない。」
「では、私《あたし》がとんでまいりましては?」と、オウムが籠《かご》の中から、羽ばたきをして言いました。
「なるほど。」おじいさんは、にこにこうなずきました。「おまえなら間に合うかもしれないね。」
おじいさんは、さっそく、オウムを籠の中から出しました。そして、みんなと一しょに門口《かどぐち》に出てオウムにおしえました。
「ほら、ごらん、ずうッと向うに、大きな星が三つ光ってるだろう。わしの家《うち》は、その一ばん左の星のすぐうしろにあたるんだよ。」
三
オウムは、さっと飛び立ちました。こんなにして力一ぱい、つばさをのばして飛ぶのは何年ぶりでしょう。オウムは、一気に高くとび上って、矢のようにかけ出しました。
はてしもなく遠い、長い長いつめたい道でしたけれど、オウムは、とうとう、まよいもしないで、サンタクローズのお家につきました。そのおうちの、ふわふわした白い毛皮の屋根の上に、赤い、きれいな煙突が、にょきりと立っていました。
「おはいんなさい。」と、窓にまたたいている灯《あかり》が言いました。「おへやの中はあったかよ。」
オウムはへとへとにつかれきっていました。でも、夜《よ》があけないうちに……よし子さんが目をさまさないうちに、帰らなければならないので、ちっとでもぐずぐずしてはいられません。
「おうちのコウノトリさんは、どこにおいでです。おじいさんのお使いで、くびかざりをいただきにまいりました。」と言いました。
「ああ、くびかざりッて、これでしょう。」と、屋根のてっぺんから声がして、おじいさんに可愛《かわい》がられている、コウノトリが、くびにきらきらした、金のくさりをさげて、出て来ました。
「さあ、もっていらッしゃい。おじいさんがわすれていったのですよ。」と、コウノトリはにこにこして、くさりをはずして、オウムの、くびにかけてくれました。
オウムは、大よろこびで、おじぎをして、
「さようなら。灯《あかり》さんにもさようなら。」と言って、どんどんかけてかえりました。
「よし子さんは、まだお目ざめじゃアないでしょうね。」と、オウムは、おうちへかえるなり、いきをはずませてききました。
「ああまだだよ。もらって来た?」と、イヌとネコが、目をひからせてききました。
「ごらんなさいよ。」と、オウムは、くびのくさりを見せました。
「ほう、えらいえらい。」
「ああ、よかった。」と、イヌとネコは、かわりがわり言いました。
「僕なんか、もうオウムさんのまえではいばれないよ。」と、イヌは、さっき、オウムをばかにしたのを、あやまるように言いました。オウムは、にこにこ笑いながら、よし子さんの枕《まくら》もとへ、くびかざりを、そっと、おいときました。
イヌや、ネコや、あるき人形や白熊へのおくりものは、おじいさんがちゃんとそろえて、よし子さんのおねだいの下へおいていったのです。
「さあ、もう、お目ざのおうたをうたってもいい時間ね。」と、オウムは、そう言って、うつくしい声で、夜中につくったあたらしい、朝のおうたをうたいました。
ひとりでに、流れて出て来る、あかるい、ほがらかなそのうたのふし[#「ふし」に傍点]は、サンタクローズのおじいさんからのおくりものでした。
よし子さんは、そのおうたで目をさましました。よし子さんが、まくらもとに小さな金のくびかざりを見つけて、おどり上ってよろこびました。
よし子さんにも、イヌにもネコにも、オウムにも、それはそれはたのしいクリスマスでした。
底本:「赤い鳥傑作集」新潮文庫、新潮社
1955(昭和30)年6月25日発行
1974(昭和49)年9月10日29刷改版
1989(平成元)年10月15日48刷
底本の親本:「赤い鳥」復刻版、日本近代文学館
1968(昭和43)〜1969(昭和44)年
初出:「赤い鳥」
1928(昭和3)年12月号
入力:林 幸雄
校正:鈴木厚司
2001年10月31日公開
2005年9月25日修正
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