十姉妹
山本勝治

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)旱《ひでり》の空は

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)お前等|呑気《のんき》そうに

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)何※[#感嘆符二つ、1−8−75]
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 田面には地図の様な線条が縦横に走って、旱《ひでり》の空は雨乞の松火《たいまつ》に却って灼かれたかの様に、あくまでも輝やき渡った。情けないほどのせせらぎにさえ仕掛けた水車を踏む百姓の足取りは、疲れた車夫の様に力が無く、裸の脊を流れる汗は夥しく増えた埃りに塗《まみ》れて灰汁《あく》の様だった。
 そして、小作争議事務所に当てたS寺の一室は日増しに緊張して行った。

「おい、遂々《とうとう》、彼奴等、白東会を雇いやがったぜ」引裂く様に障子を開けて入ってきた藤本は、一座を睨み廻して報告すると、新たに現われた敵を眼前に挑む様に唇を噛んだ。居合わせた者は一様に肩を揺すり眼を据えた。
「知ってるやろ、この県の白東会の支部長云うたら、ほら
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