だ!
 馘首を取消せ!」
 協議の結果要求が決った。この要求が入れられねば断然ストライキだ!
 そして、支部長ら幹部が翌日皆を代表して交渉に行こうと申出た。皆が承諾した。
 だが、翌朝、腕を撫で、気を張詰めて今か今かと待っていた職場の従業員の許へ、交渉から帰って来た幹部は、さも深刻な顔付でこう言ったもんだ。
「ストライキ、これは資本家に対して、解雇手当を充分取るための戦術だ。この不景気の際に、手当は充分出すと言うのだから、下手にまごつくと諸君の首も危い。それでは虻蜂取らずだ。この場合、涙をのんでストライキは思い止る方が諸君の為だ。」
 出鼻を挫かれて彼らは力抜して了った。

 が、今、窓の外に寒風に曝されている仲間を眼前に見る時、従業員達は仲間に対するすまなさに胸を緊められる思いだった。それに、何時自分達が同じみじめな姿にならないと断言できよう! 幹部の反対を押切っても一緒にストライキをやるべきではなかったか。
 その時、支部長と幹部達が出て来て、皆の前で何か喋り出した。が、次の瞬間、旗を持っていた労働者が支部長に詰寄って二言三言言ったと思うと、不意に旗の柄でぐわんと支部長を殴りつけ[#「殴りつけ」に「×」の傍記]た。柄のこじりが折れて飛んだ。支部長の顔にさっと血が流れ[#「血が流れ」に「×」の傍記]た。
 それを見た瞬間、各職場の従業員達は堰を切ったように歓声を挙げて空地に雪崩れ出た。
 旗の柄は三つに折れ、支部長は頭を抱えて走った。幹部達も我先にとその後を追った。
 工場側では当分その約束の手当を払えないと言うのだ。然も、支部長ともあろうものがそれを組合員に押付けようとするとは。もう欺されはせぬ。俺達は俺達だけで結構だ。
 今、失業者と就業者の歓声はお互の連帯を誓う[#「連帯を誓う」に「×」の傍記]握手と団結に融け合って高く高く挙る。
「首切りを取消せ!」
 彼らの強く踏みつける靴の下でダラ幹組合旗はへし折られ、蹂躙され、破れた。彼らは今こそ全協の旗の下[#「全協の旗の下」に「×」の傍記]でストライキに起つた。
 汚れた旗よ、失せろ!
 俺達は新しい全協[#「全協」に「×」の傍記]の旗を高く掲げよう!



底本:「日本プロレタリア文学集・20 「戦旗」「ナップ」作家集(七)」新日本出版社
   1985(昭和60)年3月25日初版
   1989(平成元)年3
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