に行くほど、藍色に変って行く。そしてその中に、いわなの斑点のある身体が、二匹も三匹も動いている。鰭《ひれ》の動くのさえ鰓《えら》のひらくのさえ見える。この水の上に、小さな虫が落ちると、今まで下の方ですましていた奴が、いきなり上を向いて突進してくる。パクッと、あたりの静けさを破る音とともに、虫は水の下へ、魚の腹へ、消えて行く。一面にたたえた水をへだてて、対岸に霞沢岳、左手に岩ばかりの穂高の頭が雲の中に出ている。Y字形の雪谷と、その上に噛みあった雪とが、藍色の水と相対して、一種の凄みがある。水の中に立った白樺のめぐりを、水にすれすれに円を画いて五、六匹の白蝶が、ひらひらひらとたわむれていたが、そのうちの一匹は、力がつきたのか、水の上にぱたりと落ちた。疲れた翼を励まして水を打ったが、二、三寸滑走してまた落ちた。ぱたぱたぱた水の中でもがく。友に救いを求めるように。そしてその小さな波が、岸の熊笹の葉を動かした時に、パッと音がして白蝶の姿は藍色の水に吸いこまれた。あとに小さな渦が一つ、二、三寸、左のほうへ動いて行って、スーッと消えた。霞沢岳の影と白樺の影が、一緒になって、ぶるぶると震えている。哀れ
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