響して、はい松の静けさの中にひびいてくる。岩そのものから出る声のように、燕が岩から生れるのではないかと思えるように、二つのものが親しそうに見えた。

      小屋

 宿屋の前では、広い河原を流れる水が、少し下流に行くと十間幅の激流となる。凄ましい音をたてて水はうねったり跳ねたり、できるだけの力と速さで、われさきにと、流れて行こうとする。底にある石という石はみんなころがす勢いではねて行く。河辺に立つと、氷のような涼しさが、ゴーゴーという叫び声の上で、一面に漂って、岸の木々の葉には、常に風が吹いている。ここに、丸太をつないだ橋がかかって、渡る一歩ごとにふわりふわりとゆれる。下では白い泡と緑の水とが、噛みあってわめいて行く。中央に立って下流を見ると、木のない焼岳が、静かに煙を上げている。この橋を渡ると、青い草原となって、白樺が五、六本と落葉松が生えて、ところどころに、蕗の花が夢の国に行ったように、黄色く浮んでいる。緑にこされたためか、流れの音は、ここに入ると、急に静かに響いてくるようになる。この原は十間でまた小川に達する。透きとおるような水が音もなく流れて、このちょっと下で激流に流れこむのだ。この二つの川の間が、われらの住家である。小川の辺の小高いところに、自然木で組み立てて、板をはった十畳敷の小屋ができた。屋根には蕈《きのこ》の生えた太い木が五、六本のっている。小屋の入口には、小川から運んだ石でかまどをつくり、その傍には白樺と赤樺で組んだ三本足の鍋かけができた。ここに太い落葉松が、天にとどいている。その下に、緑の草の上にテーブルと椅子が厚さ二寸もある板でつくられた。小屋の小川に面した方とその反対側に、障子を横にしてふさぐ、大窓があけられた。三尺の入口を入ると、右手の窓からは、河と大岩とが見え、左手の窓からは、白樺と緑の草とが見える。正面の棚には、さもえらそうに、本がつまって右手の棚には、罐詰が勇ましく行列をしている。床の上には、うすべりをしき、毛布をしいて、火鉢が一つ、醤油、砂糖、米の入物が薬罐と一緒に置いてある。毛布の上に寝ると、小屋の窓の下は小川で、大きな岩が、がんばった両側を、水が静かに流れて行く。窓のところに川の上に枝をかざした白い幹の木が、三本立っている。川の向う側は熊笹で、やがて森になる。白樺がちらほら見える。この森はもう霞沢岳の麓である。だから、その
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