いる。小池が雪の中に倒れて荘厳な雪の匂いがあると盛んに主張した。ほんとの真面目を教える匂いである。人間の本性を示す匂いである。雪の匂いをかぎうる人は確かに幸いだ。棒のように倒れても雪の匂いをかげばちっとも損にならない。この原をさきへ行くといい傾斜がある。一線のスキーの跡もないところを滑って行くのは愉快である。とめどもなく滑るような気がする。たちまちにして新天地に達するのだから面白い。眼がだんだん雪に反射されて傾斜が分らなくなってくる。平らだと思うと滑り出す。この新しい場所を教えられた帰りに宿の側で三町ばかり林の中をぬけて滑った。むやみと速くなって恐ろしいなと思うときっと倒れる。恐れては駄目だが木が列のように見え出す、とこれは速過ぎると思ってしまう。馬でひっかけられたより速いように思える。夜は炬燵にあたりながらトランプをやった。
 十二月二十七日。朝起きて見ると烈しい風だ。雪がとばされて吹雪のように見える。今日は孝ちゃんに裏の山へ連れて行って貰う約束をしたのでなんだか少し恐ろしくなった。それでもみんなやせ我慢をして決して止めようとはいわない。スキーに縄を結びつけて滑り止めを作った。板倉が
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