窟が馬鹿げてくる。もっと子供になったほうがいい。自分の頭の空虚を知った子供にはさきがあるが、うぬぼれで錆がついた大人の前途は世の障害となるばかりだ。見ろ、雪の世界に立つと雪があるばかりだ。
 三人でいつもの山に行った。雪が降っている。今日は戸田が大きな毛の帽子をかぶったから西洋の古武士の面影がある。「ジャン将軍よ」と山の下から呼ぶと、雪の山の上に足をふんばって空に浮いた勇ましい将軍の姿が下ってくる。たちまち「ほーい」と声を上げ給いつつ雪煙が立つ。板倉と坊城とは急な崖をどうかして成功しようと滑ってくるが、えぐれたようなところでその上倒れた穴だらけだから猛烈に雪の中にたたきこまれる。坊城は相変らずがんばって何度でもやる。板倉もやったがついに二人とも兜をぬいだ。昼からは炬燵にあたりながら遊んだ。明日は帰ることにした。
 一月二日。板谷のそばまで外人と一緒に滑ってきた。外人は鉢盛に行くのだ。別れ道で「それでは失礼」というとウ氏が「また会いましょう」と答えた。名残り惜しい雪を眺めながら汽車が出た。戸田は宇都宮で降りた。後の三人は上野に七時に着いた。泥濘にごった返した土を見た時、帰らなければよかっ
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