の景色で洗われたように思われた。瓢箪をさげて見る景ではない。もっと荘厳な、もっと幽邃《ゆうすい》な景である。汽車は雪よけのトンネルを出たり入ったり、静かな雪の世界に響くような音をたてて行く。よほどたってから小林をたたき起すと目をこすりながら「どうだ素敵な雪だ」といまごろ感心している。呆れてものがいえない。七時に雪の塊があるなと思ったら板谷の停車場に着いていた。おろされたものの見当がつかぬ。停車場の前の五色温泉案内所という札をかけた家に、初めて雪の上を歩きながらとびこんだ。気持ちのいい炉辺に坐りこみながら朝食を頼んで、人夫をついでに頼んだ。雪の世界に固有な静けさといかにも落ちついた気分が、小綺麗な炉にも黒ずんだ柱にも認められる。
 まだ五色にはスキーのお客は一人もいないと聞いて大変うれしくなってきた。そのうえ宿屋は千人も宿れるといわれて、少しそら恐ろしいような気にもなった。十時ごろ五色から二人の人夫がスキーで迎えにきてくれた。二町ばかりは雪をはいた線路をつたうので、スキーを抱えながら歩いて行く。左手は線路の下の谷をへだてて真白な山が並んでいる。眼界はことごとく雪である。二つばかりトンネル
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