たと思った。銀座を歩くと貧民窟のような汚なさを感じた。飾ってある人形の衣裳を見ても毒々しくてちっとも美の感じがしない。万事が毒々しく汚れて見えた。人の顔はいじけて見えた。大声で笑いたくなった。僕らのはいてる靴は破れ、服もしわくちゃだ。人が変な顔をする。乞食になったらこんな気分になれると思った。乞食もなかなかいいものだ。うぬぼれには乞食にもなれない。
以上は腹の中の虫の言い草だ。随分ひどい悪口をいったから、筆記している僕さえ腹がたった。さいわいと僕のことはあまりいわなかった。腹をかしたので遠慮したのであろう。したがって悪口をいわれた人はいわれ損だ。輔仁会雑誌にのせたのは僕が悪い。大きな心で許してやれ。
[#地から1字上げ](大正七年三月)
底本:「山と雪の日記」中公文庫、中央公論社
1977(昭和52)年4月10日初版
1992(平成4)年12月15日6版
底本の親本:「山と雪の日記」梓書房
1930(昭和5)年3月
入力:林 幸雄
校正:ちはる
2001年12月25日公開
2005年11月24日修正
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