は実に間違いなく足利《あしかが》の物なので思わずも雀躍《こおどり》した,
「見なされ。これは足利の定紋じゃ。はて心地よいわ」と言われて若いのもうなずいて、
「そうじゃ。むごいありさまでおじゃるわ。あの先年の大合戦の跡でおじゃろうが、跡を取り収める人もなくて……」
「女々《めめ》しいこと。何でおじゃる。思い出しても二方(新田義宗《にッたよしむね》と義興《よしおき》)の御手並み、さぞな高氏《たかうじ》づらも身戦《みぶる》いをしたろうぞ。あの石浜で追い詰められた時いとう見苦しくあッてじゃ」
「ほほ御主《おのし》、その時の軍《いくさ》に出なされたか。耳よりな……語りなされよ」
「かたり申そうぞ。ただし物語に紛れて遅れては面目なかろう。翌日《あす》ごろはいずれも決《さだ》めて鎌倉へいでましなさろうに……後《おく》れては……」
「それもそうじゃ,そうでおじゃる。さらば物語は後になされよ。とにかくこの敗軍の体を見ればいとど心も引き立つわ」
「引き立つわ、引き立つわ、糸のように引き立つわ。和主《おのし》もこれから見参して毎度手柄をあらわしなされよ」
「これからはまた新田の力で宮方も勢いを増すでおじゃろ
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