。が、彼らが君の作品に下した評語は、君に知らせることは見合わせよう。それはあまりに君を傷つける心配があるからだ。で、僕たちは遺憾ながらあの作品を『×××』に載せることは見合わすことにした。君が、僕のこの苦言に憤慨して、折り返し傑作を寄せてくれれば幸いだ」
罠《わな》! 俺は確かに山野の掛けた罠に掛ったのだ! あいつは自分の華々しい成功に浸りながら、その意識をもっと高調させるために、俺を傷つけてみたくなったのだ。あいつは桑田などに、
「どうだろう! 富井のやつ、京都で何をやっているのだろう。相変らず例の甘い脚本か何かを、書いているに違いない。どうだい!『×××』に載せてやるとかなんとかいって、あいつの作品を取り寄せて、皆で試験をしてやろうじゃないか」と、いったに違いない。人の好い杉野や岡本などが、心配して止めると、あいつはなお面白がって、実行に取りかかったのだ。あいつに似合わない親切な手紙は、こうした動機からでなければ、書かれるわけのものでない。山野に対する憎悪、永久に妥協の余地のない憎悪が前よりも十倍激しい勢いで、俺の心のうちにこみ上げてくるのを感じた。が、山野のトリックに掛って、う
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