の主題は、今の文壇には一度も現れなかったような、奇抜なしかも深刻味のある哲学だった。もし、「顔」が、山野、否、俺の友人の作品でなかったら、俺はどんなに驚喜したことだろう。それが、俺の競争者しかも俺を踏みつけようとする山野の作品であるために、俺は全力を尽して、その作品から受ける感銘を排斥しようとした。が、俺は山野の作品の価値を認めぬわけにはいかなかった。が、それから連想されることは、山野が一躍して文壇に認められはしまいかということだ。俺はそれを考えると、いい気はしなかった。山野がいったん認められると、あいつは俺に対してどんな侮蔑をやるかも知れない。同人雑誌を発行したのは、山野の知らしてきたような手緩《てぬる》いものではない。俺はそれを思うと暗然たる気持がする。が、俺を圧迫したのはこの作品ばかりではない。その次に載っている桑田の小説「闖入者《ちんにゅうしゃ》」だって、渾然《こんぜん》としてまとまった小品だ。あいつのきびきびした筆致を見た時、俺は桑田にだってとても敵《かな》わないと思った。が、俺はそのことをなるべく認めまいと努力した。が、実際俺の「夜の脅威」を「顔」や「闖入者」に比べると、作者の俺がどんなに、贔屓《ひいき》目に見ても、やつらのものが段違いにいい。俺は、それを考えると、少し絶望的になる。が、山野や桑田の作品がよいばかりでなく、杉野や岡本のものでも、なかなかまとまった出来栄えだ。俺は杉野や岡本などの素質を、俺以下のものと見積って、やっと安心してきたが、その安心もどうやら根底から揺《ゆら》いできたようだ。俺は雑誌「×××」を手にしたまま午後三時頃から、七時頃まで夕食も食わないで、ぼんやり考え込んでいた。するとそこへひょっこり吉野君がやって来た。俺は、この時ぐらい吉野君を頼もしく思ったことはない。俺は、吉野君と一緒に「×××」の悪口をいいたかったからである。吉野君も恐らく、同じ目的で、俺を訪問したのかもわからなかった。
「やあ! 君も『×××』読んでいたのか。僕も今朝本屋で買ったよ。案外いいものはないね」と吉野君は、座に着くとすぐ、そこに落ちていた「×××」を弄《いじ》くりながら話し出した。俺は、吉野君の総括的な貶《けな》し方が、かなり気に入った。が、俺は「本当だ」とも相槌を打てなかった。実際俺はどの作品も感心していたのであるから、俺は恐々《こわごわ》ながら、
「
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