も杉野にでも泣きついて、同人に加えてもらう方が、俺にとって得策ではあるまいか。が、俺をばかにしきっている山野は、「富井などが、同人になるのなら、俺は差し控えた方が、いいかも知れない」ぐらいの毒言は必ずいうに決っている。そうなれば、かえって恥をかきに出るようなものだ。俺はやっぱり、独立してやってみよう。「夜の脅威」を書き上げたら、早速中田さんに見てもらうのだ。彼らが、同人雑誌などでもがいているうちに、俺のものは一躍して相当な文学雑誌に紹介される。俺は、それを考えていると、手紙を読んだ時に受けたむしゃくしゃ[*「むしゃくしゃ」に傍点]が、少しは癒えていくような気がした。
 そこへひょっくり吉野君が訪ねてきた。俺は、早速東京の連中が、同人雑誌を出すことを話した。俺の口調はまったく平静を欠いていた。が、吉野君は、いつものように「朝日」を悠然と吸いながら、「なに君! 同人雑誌などへは、いくら書いても仕方がないものだよ。やっぱり大きい雑誌に書かなければだめさ。まあ桑田君などに、大いにやらせてみるのだね。そうお安くは問屋で卸さないから。僕は、同人雑誌などで、騒がないで、いいものができれば、『文学世界』あたりへ持ち込むよ。昔の縁で、嫌とはいうまいから」
 俺は、吉野君が、同人雑誌を貶《けな》しつけるのをきいて、いくらか安心した。そして心のうちで山野らの「×××」が、一日も早く廃刊することを祈った。そして「×××」が、なるべく文壇から注目されないことを祈った。実際俺は、俺の全人格をもって、同人雑誌「×××」を呪っていたのだった。

 一月三十日。
 俺は、今宵初めて中田博士を自邸に訪うた。俺は感激にみちていた。が、考えてみれば、感激した俺の方がばかだったのだ。中田博士の方からいえば、ただ一人の学生の訪問を受けたのに過ぎないのだ。
 俺は、挨拶が済むとすぐ、俺の脚本を出した。
「ぜひ一つ御覧になって下さい。できはあまりよくありませんが、処女作ですから」
「なるほど」と、博士は顔の筋肉一つ動かさずにいった。そして、ちょっと二、三枚めくって見てから、「いずれ拝見しておきましょう」と、静かに付け加えた。俺が、山野らの同人雑誌に対抗するために、懸命の力を注いだ力作を、博士はなんの感激もなしに、俺の手から受け取った。俺はそれがかなり淋しかった。
「よかったら、どこかの雑誌へ」と、そんなことは、口
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