る女なんて、どんなに嫌だろうと思っていましたのに、私自身いわれてしまったんですもの。まるで、伝家の宝刀をつきつけられた賊のようでしたわ。私、どんな清純な気持でいても、奥さまの立場から見れば、そうに違いないんですもの。やはり、奥さまのおありになる方には、どんな意味でも、お世話にならない方が、いいんですわ。」
前川は、新子に云わせるだけ、云わせた方が、かえって彼女の胸が晴れるだろうと思って、なお黙然として歩いていた。
「これ以上、お世話になっていても、年中ビクビクしていなければなりませんし……それに、美和子が奥さまに、随分失礼なことを申し上げたので、奥さまは、私達姉妹をもう、仇敵のように思っていらっしゃるでしょうし……」悲しげに声が曇り、新子もしばらくだまって歩いていたが、
「お世話になるばかりなってしまって、勝手なこと申し上げているようで、悲しいんですけれど……」と、新子は前川が、黙々とこっちの云い分を聞いているだけなので、かえって胸が一杯になり、その先を続けて云うことが出来なくなった。
いつか、広い昭和通の歩道を、左へ左へと歩いていた。
「それに、私ばかりでなく、姉や妹までが、ご迷惑ばかりかけているようで、いやになってしまいましたの……」
六
人の往来《ゆきき》は少く、ただ自動車の激しく走り過ぎる広い通りに添うて、どこまでも歩きながら、前川の沈黙は、無気味なくらい続いた。
ふとした出来心だとか、物の拍子で、新子に「酒場《バー》」を出させたのではなかった。
新子に会っていさえすれば、何ということなしに心豊かに、新しい希望の湧き立つような、喜悦を感じるからだ。
しかし、前川は穏健主義の紳士で、周囲を毀《う》ち破ってまで、新子との交情を深める考えはなかった。
綾子夫人の眼から、そっとかくれて、静かな、足るを知る幸福に甘んじて暮して行こうと思っていたのに、綾子夫人はこうした、慎しく隠されたる花園にまで、踏み入って来て、新子をそこから追い出そうとしているのである。
新子が感じているように、この関係は不自然に違いない、しかしそれかと云って、新子との交渉を絶ってしまうくらいなら、自分の位置や名誉はおろか、自分自身さえ、何か要らない無用のもののように、感じられて来る前川だった。
(お別れした方がいい)と云っている新子にも、何となくそぐわない一時的
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