に、首を振った。
「じゃ、私がここにいること、どうしてお知りになりましたの。」と、重ねて訊ねると、
「そりゃア知れますよ。」と、木賀は事もなげだった。
「でも……」と、不安そうな表情を、正直にさらけ出すと、
「こんなところで、新しい酒場《バー》を出せば、すぐ僕に分りますよ。」
「だって、私が居りますのが……」
「そりゃ、僕の六感。」と、木賀は、いよいよ事もなげに笑った。新子も笑いながら、
「こわい六感ですわねえ。私、貴君《あなた》がはいっていらしったのを見てびっくりしましたの。」と、受けながら、新子の気持はやや落着いた。
「いくら、びっくりしても、あんなに颯爽《さっそう》と、お逃げにならなくっても、いいじゃありませんか。あれで、貴女だということが、いよいよ分った……」
「まあ、颯爽と……」妙な比喩《ひゆ》に新子も笑った。
「貴女が、銀座に出たという噂だけは、聞いたんですよ。それ以来貴女を探していたのですよ。でも、ここだろうと睨《にら》んだのは、僕の直感だったのですよ。」
「私が、銀座に出ているなんて噂、どなたから、お聞きになりましたの……」新子は、また不安になった。
「それは、貴女の六感に委せる。多分、当る!」
「まあ!」
(前川さんにですか、それとも奥さんからですか)と、訊き返そうとしたが、それは相手が前川と自分の関係を知らない場合は、藪蛇になるので、新子は咽喉《のど》まで出た言葉を、噛み殺した。
「とにかく、貴女が酒場《バー》のマダムになったのは、大賛成だ。ロマンチックで、いいですな。僕は、軽井沢で、貴女と話をした味が、忘れられないんですよ。――カクテル、辛いのをね。一つ、貴女のとこのバーテンダーの腕前を拝見しましょう。」
木賀は、新子の心の一抹の不安を外《よそ》に、他意なく微笑んだ。
新子も、ひやっとした気持が、まだ胸には残っているものの、とにかく闊達《かったつ》な若者に対する自然な気安さで、立ち上ってバーテンダーのところへ行った。
六
銀盆に落花生とカクテルとを載せて、運んで行くと、
「貴女は?」と、問われて、
「いけないんですの。」と、云うと、
「そりゃ、つまんない!」と、云いながらも、酒ずきらしく、唇を細めて盃を嘗《な》めるように、
「こりゃ、相当なもんですな。こんないいバーテンを、どこでお見つけになったんですか。店の装飾と云い
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