ると、前川さんの奥さんにだってすまないと思うわ。」
「………」
決して快くは思ってはいない、前川夫人まで引合に出しての、無慈悲な姉の非難に、新子は胸がつまって、口がきけなかった。すると、圭子はニヤニヤして、
「でも、何の関係もなしに、やっているとしたら、貴女も相当なもんね。私は、頼もしい妹を持って心強いわ。」と、云った。
「どういう意味なの。お姉さま、それは?」新子は、聞き捨てならぬ気がして、訊き返した。
「どうって……。もし、そうなら、凄いじゃないの。つまり、前川さんをこうだもの。」
と、笑いながら、お手玉を取るような手付をして見せた。
新子は、ムカムカしながら、
「お姉さん、貴女、そんな気持で、私のすることを見てらっしゃるの?」と激しい眼付で、姉をにらんだ。
「だって、そうじゃないの。身体を許さないで、相手にあれだけのことをさせているのは、すごいじゃないの。私になんか、とても出来ないわ。」
「お姉さんの馬鹿!」新子は、とうとうかんしゃく[#「かんしゃく」に傍点]を起して、姉を怒鳴りつけた。
「あら! よく知っているわねえ。私は、どうせ馬鹿よ。新子ちゃんは、利口者よ。おほほほほ。」と、さも可笑《おか》しそうに笑い出した。
「お姉さんが、もう少し家のことをかまって下さったら、私酒場なんかに出はしませんよ。」と、新子はつづけて怒鳴った。
「悪かったわねえ。でも、私は劇のほか、何にも分らないの。ご免なさい!」
そう云うと、姉は新子の鋭鋒を避けるように、トントン二階へ逃げ上った。
四
姉と争った後味の悪い気持で、お店へ来ると、女給の一人の妙子という、チンマリと可愛い顔の少女が、豊かな黒髪を、プツリと切って、すっかり見違えるような後姿《うしろすがた》で、水盤の水を入れかえているので、新子は驚いて、
「まあ。勿体ない」と、眼を刮《みは》って近づくと、すっかり化粧も変えた顔で、
「だって、この方が便利なんですもの。」と、羞《はに》かみながらいった。
「似合うからいいわ。」
なかなか、女学生らしい溌剌《はつらつ》たる味わいが出て、よく似合っていた。
そんなことで、新子の気もまぎれ、部屋へちょっと上るとすぐ階下《した》へ降りて来て、少女達と話をした後、よし子のトランプを借りて、一人隅の方の卓子《テーブル》で、ペーシェンスで、その日の運勢を占い始めた
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