座なんか、少しの間だって、独りで歩くの、間がぬけているわ。」前川は、仕方なく肯いて立ち上った。
 松屋を出て、電車通りを横ぎり、そこの洋品店の前で、前川はショウウィンドーを見ながら待っていた。美和子は、十分もかかって、自分の好みのハンドバッグを撰み出すと、表で待っている前川のところへ来て、
「ねえ、ハンドバッグと靴とで、お姉さんと一しょに、七十円くらいまではいいでしょう?」
 前川は、美和子らしい得手勝手な金額に微苦笑しなら、「どうぞ。」と云った。
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  愛情と嫉妬




        一

 その夜は、特別上機嫌の美和子が、若い会社員風の五人連れの席に一人交じって、十二時近くまで唄を歌ったり、卓子《テーブル》と卓子《テーブル》とのわずかな隙で、ダンスをしたり、おしまいには、ハイボールのやり取りをはじめた。男達は、面白がって美和子にばかり飲ませるらしく、美和子はすっかり酔っぱらってしまい、前髪を切り下げている円顔は赤くなって、まるで可愛い金時のようであった。誰彼かまわず、しきりとからんで行く醜態に、新子はひきずるように、二階へ上げたが、しみじみこれでは困ると思った。
 一時に店を片づけて、美和子を介抱しながら、自動車に乗ったが、美和子は車が動き出すと、気持が悪くなったらしく、水のようなものを、ゲラゲラ吐き出した。
「困りますね。何か敷いてくれませんか。」運転手は、ブツブツ云いながら自動車を止めた。
 新子は、妹の浅ましさに泣きたいような気持で、脊《せ》を撫でてやると、美和子は思いがけなく、運転手に啖呵《たんか》を切り始めた。
「あなたの車なんか、よごさないわよ。ヨッパライを乗せてるんだから徐行してよ。お金なら、いくらでもまして上げるわよ。」運転手は、苦笑しながら、しかし云われたとおり、静かに走り始めた。
 美和子は、姉の肩に身をすりつけて、
「ねえ、楽しいわ。」と、酒臭い溜息をした。
「楽しいもないわ。そんなになって醜態だわ。明日からお店へ来るのお断りだわ。」
「お姉さまの意地悪!」と、一層新子の胸に、顔を埋めて、甘ったるい泣言を云い始めた。
「美沢さんなんてエ、駄目なの。美和子、酔っちゃったから、ほんとのことを云っちまうわよ。美沢さんなんか、心ならずも、私と仲よしになったもんだから、今になって何か云うと、私にばかり責任を被《かぶ》せたがるのよ。
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