前川は、カーテンを開いて、出窓の上に鳥籠を安定させると、新子を振り向いて、何と云うことなしに微笑した。
新子も同じように、微笑しながら、この世に幸福を盛る器があるとすれば、自分はその中にいるような、晴々したのどかな気持になっていた。もっとも、その器の中にいるだけで、ほんとうに幸福であるかどうかは、別問題であったが……。
二
しかし、そうした幸福感が、間もなく妙に新子を切なくした。なぜといえば、前川は、小さい椅子にかけて、葉巻をくゆらせながら、開店景気とはいえ、この二日間の売上げの好かったことを話し、でもこれが当分続くとしても、やがて常連だけになり、そこで初めて店の収入が決まるというような、その場合の新子の気持とは、およそそぐわない話をし始めたからである。新子は味気《あじき》なく、物足りない気がして悲しかった。
「会社の方、まだお仕事があるんじゃございませんの?」
「いや、別に。帽子やステッキを持ってくれば、会社へ帰らなくってもよかったんです。でも、今日は六時までに、家に帰らなければ……」
「祥子さんや小太郎さん、お元気なんでしょう。」
「ええ、しょっちゅう、貴女のことを云って、会いたがっていますよ。それに、路子も、たいへん貴女に、すまながっています。今度、何か機会を作りますから、子供をご覧になりませんか。」
「ぜひ、どうぞ。」
話していても、新子は何となく不満である。もっと外の話がしたい。もっと心に触れる話が……こんな話で飽きたらないのは、結局前川を愛しているためだろうか。と新子は、自分の心を探ってみている。前川とても、同じ気持であろうか、他愛ない話を、あれやこれやとしながらも、容易に腰を上げかねていた。時間ばかりが、切なく過ぎる。突然、
「お姉さまァ。上にいらっしゃるの!」ハッとするほど陽気な声がして、バタバタと、階段を上って来る足音がした。
「僕、居てもかまいませんか。」と云う、前川の言葉の終らぬ内に、部屋の中へ、美和子が飛び込んで来た。
「あら!」前川を見ると、さすがに顔を赧《あか》くして、「お姉さま、ちゃんとご紹介してよ。」と、恥かしそうに、前川から顔をそむけて、姉の肩に甘えかかった。新子もつい、おかしくなって、笑いながら、
「前川さん。妹の美和子でございます。」と、紹介した。
「そうですか。昨夜《ゆうべ》は、あんなに僕達をおかつぎ
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