ないのに、聴かせるものですか。」
「じゃ、酔ったらきかせてくれますか。」
「ええ、そして毎晩、お店へ来て下さるというお約束をして下さらなければ……つまり、どうぞゴヒイキにということなのよ、分って……」と、冗談ともつかず、真面目ともつかず、美和子はペコリと頭を下げた。

        六

 いかにも、あどけない少女らしく見えていて、男心を捕えるのに妙を得て、奔放自在、しかもどっかに才気の閃きを見せて艶冶《えんや》である、こんな少女を、一体どこで見つけて来たのだろうと、前川は感嘆しながら、心の底まで楽しくなっていた。二人の連れの一人が、前川を先生と呼ぶのを早くも聞き覚えて、
「ねえ。先生、グウ、チョキ、パッをしない?」と、可愛い握り拳を出した。
 子供のやる気合ゲームで、相手がグウを出せと云ったら、それに誘われないように、チョキかパッを出さねばならない。
 前川は、小太郎や祥子の相手をさせられているだけに、
「グウ、キョキ、パッよろしい、君なんか一ひねり……」と、自信を以《もっ》て始めたが、アッサリ美和子に負けてしまった。
「じゃ、僕と……」連れの一人が代ったが、これは前川より、もっと手がるに片づけられてしまった。
「じゃ、この次、三回勝のジャンケン。三回つづけて勝てばいいの。」と、別のジャンケン遊びを始めたが、これも美和子は、可愛いかけ声に拘《かかわ》らず、どこか気合がすぐれていて、相手の気を釣って、巧みに勝ってしまった。
 その時、新子がサービスしていた客が帰ったので、ようやく、前川のところへ来て、挨拶したが、みんなは美和子とたわいなく遊ぶのに夢中であった。美和子は、それと気づくと、芝居気たっぷりに、「マダムここへおかけにならない?」と、わざと席を立って、笑いもせずに、新子の袂《たもと》をとらえて、坐らせようとした。
「この人は、とてもいい子だね。」と、前川は楽しそうな眼で、新子を見上げた。新子は、前川が、美和子が、自分の妹であると知ったら、どんな顔をするだろうと、苦笑せずにいられなかった。美和子は、前川を姉に委せると、自分はまたお友達のグループにはいって、そこで賑やかにさわぎ出していた。
 前川の一行が、しばらくしてから[#「しばらくしてから」は底本では「しばらしくてから」]勘定をすませて、帰りかけると、美和子は後を追うて、前川の背後にすがりつきながら、
「ね
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