子が見つけたのだろうと、驚きながら答えた。
四
(ああ)と応じた前川の言葉に、人言《ひとこと》を真似る鳥のように、美和子も、
「ああ。」短く同じように領いて、ジッと見ていたが、いきなり親しげに眸を輝かせると、
「分ったわ。貴君《あなた》ですのね。」と、云った。前川は驚いて、首をかしげ、
「貴君ですのねって、何です?」訊き返した。
「いいの。いいの。何でもないの。」と、女学生風な親しげな物云いを残して、バー・スタンドの方へかけて行ってしまった。
「可愛い子ですね。少し酔っていますね。」
「そうだね。」前川の連れは、そんなことを呟き合っていた。
新子は、前川がどんな種類の友達と一しょに来ているか分らないし、――もっとも、ここへ来る以上、自分が挨拶に行って構わないだろうけれど、なるべくなら、普通の客のように扱うのがいいだろうと、いつの間にか日陰の女がするような心配を、している自分が、淋しく思われた。それにしても、帝劇で前川をチラリと見て知っているはずの美和子が、連れも構わず、下らないことを云い出しはしないかと不安になった。
美和子は、バーテンに前川の註文を通すと、姉の傍に飛んで来て、耳の後《うしろ》で、
「お姉さまのあの人来ているわよ。」と、いや[#「いや」に傍点]な云い方をするのを、
「何を云ってるの。貴女《あなた》、お連れがあるから、つまらないこと云っちゃダメよ。」と、たしなめると、
「心得ていてよ、私、妹だとも云わないわねえ。女給のような顔しているわよ。ステキ、ステキ!」新子が、重ねて注意をしようと思う間に、美和子はもう、バーテンからウィスキイの壜とリキュールと落花生とをのせた銀盆を、すまして前川の席へ運んで行った。
このような、男性を相手の「酒場」になぞ持って来ると、美和子はいよいよ天成のコケットだった。幼い時から、お伽話と実際の差別がつかなかったり、人前に立ってワイワイもてはやされると、いよいよ有頂天になる性質は、たちまちその本領を発揮して、人に対する奉仕というようなものでなく、彼女自身がその空気の中に溶け込んで、浮《うか》れ出してしまうのであった。彼女の楽しさが即ち男を喜ばす言葉や仕草となって現われるのであった。前川が新子の妹だとは、到底気がつかないほど、彼女の女給ぶりは板に付いていた。
「君幾つ!」
「十八……」
「何て云うの――」
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