ますもの。」と、新子は、笑いながら云った。
「はははは、じゃア、もう少しご一緒に居て頂いても構いませんね。シネマでも見ましょうか。僕と一しょじゃいけませんか。」
「いいえ。どうぞ。」新子も、もうしばらく準之助氏の、やさしい言葉に慰められていたかった。
「どこがお好きなんですか……?」
「帝劇なんかで観るのが好きなんですけれど、……いま、何を演《や》っておりますかしら……?」
と、云うと、準之助氏は、立って行って、ロビーの隅に置いてある、新聞の綴《とじ》こみを持って来ると、広告欄を開けて指を辿り始めた。
「『裏街』ってのを、演《や》っておりますよ。」
「あ、それは、たいへん評判の映画でございますわ。」
新子は、一ト月前ぐらいに、予告で筋を知っている、可憐な、アメリカのお妾《めかけ》物語を、もう一度頭の中に浮ばせて、人知れず、胸をときめかせながら、
「それ、ご覧になります……?」と、われから誘うように、準之助氏を見上げた。
三
帝劇を出たときは、ちょっとの間、夕霽《ゆうばれ》にあがりそうに見えた空も、また雨は銀色の足繁く降り出して、準之助氏のラサールという、素晴らしく長い車台の車に送られて、四谷の家近く、だがなるべく近所の人の目にふれない所で、おろしてもらった時は、六時というのに冬の日の暮のように暗く、運転手が開いた蛇の目に、点滴の音が、さかんであった。
「ねえ、よくお考え下さって! 僕まだ四、五日は、こちらにいますから、どうか会社の方へ電話を……」と、やさしく云ってくれた準之助氏の言葉を耳の底に、走り去る自動車を見送っていた。
一しょに居ると、頭のてっぺんから爪先までいたわりの限りをこめた、柔かく暖かいものに包まれているようで、相手の好意が、しみじみと有がたく感じられる。だが、それだけにどっか、気のつまる感じがして、
(お夕食もどうですか)と、云われたのに(家で待っておりますから――)と、云って、断ったのは一人になって考えたい心持もあったし、長く一しょにいてはズリ落ちて行くようになる自分の心を、引き止めたい気持もあった。
姉も妹も居ない薄暗い家の中に、ぼんやり独りになると、なんとなく心が滅入り込んで行った。美沢に対する未練までが、心の中に残っていて、一度美沢にあって、美和子のことを思い切り詰《なじ》ってやりたい気持の湧く傍《そば》から、粋
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