なんか受けないわよ。」
そう云うと、圭子はサッと、隣の部屋へ引き上げて、聞いていた境の襖をピシリと音を立てて閉ざした。
四
新子は、姉と云い争ってから、すぐにも前川氏を訪ねて詫を云い、そのついでに、今後は一切かまってくれないように、頼んでおかないと、姉がいい気になって――また自分への意地も手伝って――何をし出かすか分らないと思った。
しかし、準之助氏に電話をかけようと思うと、あんな手紙を書いた後だけに、何となくわだかまりが出来て、つい三日ばかり経ってしまった。
東京へ帰ってからの、打ちつづく悲しさ腹立たしさに、食慾が衰え、新子は急にやせてしまったように、思われた。
夜は、美和子と床を並べて寝るので、妹が黙っているにつけ、喋るにつけ、その背後に在る美沢のことを考えて、いつまでも心が冴え、やがて思考から来る疲労と悲哀の圧力とで、押しつぶされたように睡眠に入るのは、いつも二時過ぎだった。朝は、夜の間にわれ知らず流した涙がにじみ拡がって頬をぬらしているのだった。
今朝は、部屋の中が暗く、いつものように暑くなかった。美和子は、心地よさそうに眠っている。起きて、窓から見ると、雨である。サツサツと横なぐりの夏の雨である。八月とは思えぬほど冷たかった。
新子は、今日は準之助氏に電話をかけようと決心した。姉の問題もあるが、しかし、今よるべき一縷《いちる》の糸もない新子のよりどころない心の寂しさが、そう決心させたのかもしれない。
十時頃、近所の酒屋から電話をかけると、
「新子さんですか、僕は、もう会って下さらないものだとあきらめて、明日は東京を離れようかと、思っていたところです……」せわしない興奮した声が、新子を何となく微笑ました。
正午《ひる》、昭和通りのレストゥラントAで、会おうという約束で、電話が切れた。
家へ帰って、久しぶりでどことなく、ふくらみを持った気持で、鏡台に向うと、新子はまた一層気持が改まった。
姉妹《きょうだい》とは背《そむ》き合い、美沢までも情けなくも自分を見棄て去った現在《いま》……彼女は、鏡に向って己《おのれ》の顔を眺めていると、この頼りない自分の姿を、そのまま見せてもいい相手は、前川一人のような気がした。
彼女は、入念な化粧をした。汗がにじみやすい、夏の化粧は浮き立って、思うようにはしにくいものであるが、今日は肌が
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