思わずおかしくなって後《うしろ》をふり向くと、ついぞ見馴れない、洋服をすっぽりと頭から被っていた。
 ギンガムか、トブラルコか、何かしら木綿のゴワゴワと音のしそうなものだったが、そのくせ着てしまうと、どんな絹物《シルク》でも、この味は出まいと思われるほど、ピッタリと、はち切れそうな身体の線に合って、それがむき出しの肩と、胸についているシイクな桃色のレースの飾りに調和し、小さい美和子の身体がとても色っぽく見えるのであった。
「いつこさえたの、お手製じゃないわね。」
「相原さんの作る銀座のクロバーよ。」
「あんなところじゃ、木綿ものだって、シルクと同じくらい、仕立代がかかるんでしょう。」
「布地《きれじ》は、全部で三円五十銭しかしないのよ。仕立代は、相原さんの方の、つけにしておいてもらったの。」
「そんなことしたら、悪いじゃないの。仕立代いくらくらいなの。」
「十円くらいでしょう。……ねえ、似合うわね、シルヴィア・シドニイみたいじゃない?……」
「何を、そうお調子に乗って、浮々しているの。貴女少しおかしいわねえ。」
「ふうん。」と、ちょっと恥かしそうな、含み笑いをしながら、
「だってえ。この頃とても、楽しいんだもの。今日は、そら日曜でしょう。日曜は坂を上ることに決めたのよ。」
「何を云ってるのか、お姉さんにはちっとも分らないわ。」
「お姉さまなんか、軽井沢へ行って、先生なんかしているからいけないのよ。日曜日には坂の上にある家を訪ねることになっているのよ。まだ解んないのかなア。」
 これは、靴下を穿きながら、うつ向いて、小さくいった言葉であった。が、にわかに改まって、
「お姉さまは、もう軽井沢へいらっしゃらないの。」と、訊いた。

        三

「もう行かないわ。九月になったら、会社か雑誌社のようなところに、就職を頼んでみるつもりよ。」
「お姉さまが、もうずーと、家にいらっしゃるんだったら、私お願い……って、話があるんだけれど……今日じゃなくってもいいのよ。」
「貴女さえ、いそいで出かけないんなら、今日だって、いいことよ。何よ。」新子は美和子が恋をしているのだと直感した。
 ちょっと会わない間に、まるで新しい生命を吹き込まれたように、美和子は生々としていた。以前から、快活でお転婆ではあるけれど、つい一月前の美和子には無かったような、抱きしめてやりたいような、女らし
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