まで考えていたほど暗い陰惨なところではないように思われた。彼はいつもよりも、晴々とした心持になっている自分を見出した。

 が、それにしても、もう一人の禿頭の小男はどうしたろうと思って注意して見ると、その男もやっぱり下足にはいなかった。むろん、図書館の中でなくてもいいが、あの男も世の中のどこかで、あの男相当の出世をしていてくれればいいと譲吉は思った。



底本:「菊池寛 短編と戯曲」文芸春秋
   1988(昭和63)年3月25日第1刷発行
入力:真先芳秋
校正:鈴木伸吾
1999年3月8日公開
2005年10月11日修正
青空文庫作成ファイル:
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