たりとそこへつけこみました。
「さようでございますよ、殿下。私共は宮様《プリンセス》なんでございますものね。少くとも二人のうちの一人はそうなんでございますものね。ミンチン先生は、宮様《プリンセス》を生徒にお持ちだから、私達の学校も今は有名なものですね。」
宮様のつもり[#「つもり」に傍点]になる事は、セエラにとって、たくさんのつもり[#「つもり」に傍点]の中で、一番大切なものでした。大切なだけ、人に知られたくないつもり[#「つもり」に傍点]でした。それを、ラヴィニアは今、ほとんど学校中の生徒の前で、嘲ったのでした。セエラは顔がほてり、耳が鳴るのを覚えました。彼女は今にもラヴィニアを打ちそうでしたが、セエラはやっとのことで怒を耐《こら》えました。かりにも宮様《プリンセス》と呼ばれるものが、怒りに駆られたりしてはならないと彼女は思いました。セエラは手を垂れて、しばらくじっと立っていました。口を開いた時、セエラの声はもう落付いて、しっかりしていました。「仰しゃる通り私は、時々|宮様《プリンセス》になったつもりでいるのよ。宮様《プリンセス》のつもりになれば、自然|宮様《プリンセス》のように立派な振舞が出来るかもしれないでしょう。」
今までにもよくそんな事がありましたが、ラヴィニアはセエラに何と答えていいかわかりませんでした。というのは、周囲《まわり》の人達が、何かセエラの方に味方しているようだったからです。少女達は、実をいうと、皆|宮様《プリンセス》が好きだったのです。で、今話に出た宮様《プリンセス》というのは、どんな宮様《プリンセス》なのかそれをもっと詳しく知ろうとして、セエラのそばへ寄り集って来ました。
ラヴィニアはやっと一言、いうべきことを考え出しました。が、それも奇抜なものではありませんでした。
「あああ、じゃア、あなたが玉座に上る時には、私達のこともお忘れにならないでね。」
「忘れるものですか。」
セエラはそれだけいうと、ラヴィニアがジェッシイと腕を組んで出て行くのを、黙って見ていました。
それ以来、セエラを嫉《そね》んでいる少女達は、何か辱しめてやりたい時に限って、セエラを『宮様《プリンセス》』といいました。またセエラの好きな少女達は、セエラへの愛のしるしに、セエラを『宮様《プリンセス》』と呼ぶようになりました。それを聞いたミンチン女史は、生徒の父兄が
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