て呉れるのも閉口だ。自分が、それを知ったため、応急手当の出来る場合はともかく、それ以外は知らぬが仏でいたい。
一、私は往来で帯がとけて歩いている場合などよくある。そんなとき注意をしてくれると、いつもイヤな気がする。帯がとけているということは、自分で気がつかなければ平気だ。人から指摘されるということがいやなのだ。そんなことは、人から指摘されなくても、やがては気がつくことだ。人生の重大事についても、これと同じことが言えるかも知れない。
一、人への親切、世話は、慰みとしてしたい。義務としてはしたくない。
一、自分に好意を持っていてくれる人には、自分は好意を持ち返す。悪意を持っている人には、悪意を持ち返す。
一、作品の批評を求められたとき、悪い物は死んでもいいとは言わない。どんなに相手の感情を害しても。だが、少しいいと思う物を、相手を奨励する意味で、誇張して賞めることはする。
[#ここで字下げ終わり]
[#地付き](一九二六年一月)



底本:「半自叙伝」講談社学術文庫、講談社
   1987(昭和62)年7月10日第1刷発行
入力:大野晋
校正:noriko saito
2005年1月6日作成
青空文庫作成ファイル:
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