けで、品物は封印もしないで、私達に預けたまゝで、帰つて行つた。帰るとき、「私は貴君《あなた》の作品を愛読してゐるのですよ」と、云つた。
 約束の通、競売の日に通知が来たので、私は女中に金を持たして、入札にやつた。すると女中が帰つて来ての話では、女中がはいつて行くと、其処にゐた税務署の役員達は「やあ! 来た。来た」と笑ひながら、税金だけを取ると、受取の紙をよこしたと云ふのである。それでは、結局私が納税した形式になつたので、これはしくじつたと思つた。
 第二期は、到頭差押へに来なかつた。おや、納めなければ納めなくてもいゝのかと思つてゐると、三期分と一緒に差押へに来たのである。向うで、手数を省いたわけである。今度も、同じ時計と指輪とを渡した。その両方とも合せて、二期分の税金額には不足する程のものであつた。役員は、納得して差押へて行つた。妻も馴れたので、今度はこはがらなつた。
 競売の通知が来た。今度こそ、ゼヒ落札してやらうと思つた。が、自分で出かけて行くのも馬鹿々々しいので、やつぱり女中をやつた。すると、女中はまた前と同じやうに納税の受取を持つて帰つた。私が咎《とが》めると、「でも何《ど》う
前へ 次へ
全6ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング