ャワへ入る最初の独軍の将校の持物になるだろう。この女は、独軍がワルシャワを占領しても、やはりアルトを歌っているのだ。そして、多くの独軍の将校が、お前が投げたように花輪を投げるのだ。この女を完全にお前のものにするのは、ただこの卒倒した状態をそのままにしておくのだ。この女を再び意識の世界へ帰さなければいいのだ。ただそれだけだ。
彼の頭は嵐のように混乱した。彼は再び拳銃を持ち直し、リザベッタのそばへ寄ったのである。
五
彼が戸外《おもて》へ出ると、外はもう宵よりも混乱の度を加えていた。そのうえ時々、タウベが落す爆弾の炸裂する声が、激しい騒擾《そうじょう》に更に恐怖と不安とを加えた。
大きい建物が、市街のあっちこっちで盛んに燃えていた。その炎で赤くただれた空に、細かい尖塔や円いドームが隠見した。
彼は、再び、深い悔恨に浸っていた。どうしても、この世に身の置き所のないような、深い深い悔恨に浸っていた。
×
八月五日の夜に、ワルシャワは陥ちた。イワノウィッチの属していた第五十五師団の第二連隊も、ワルシャワを撤退して、ヴィスワ川の右岸の戦線に就いたのであった。
大きい混乱であった。第二連隊では、副官のダシコフが行方不明になったことは誰の深い注意にも値しなかった。連隊長が、ちょっと首を傾げたまま、すぐ後任を任命したのである。
イワノウィッチは、隊伍のうちに加わりながら、大きい良心の呵責《かしゃく》を担っていた。彼は、勇敢に戦い、自分の生命をできるだけ高価に売ることを考えた。
彼の顔は、その頃からやや蒼白な色を帯び、狂犬のような瞳をしていた。戦友はそれを臆病だと解しようとしたが、彼は、それに抗議を申し込むでもなかった。が、戦友の誤解はすぐ解かれた。彼の勇敢な戦いぶりは、僚友の目をおどろかしたのである。戦うことによってすべてを忘れ、すべてを償おうと彼は思ったのである。
ワルシャワからコヴノに退却するまでに起った露軍の奇跡は、勇士イワノウィッチの五つの勲功である。
その頃の、ルスコエロー紙は、彼についてこんな記事を掲げていた。「陸軍士官候補生イワノウィッチは、人間として現しうる極度の勇気を発揮した。彼は五回、斥候としてあらゆる危険を冒し、露軍の重砲が敵手に陥るを防ぎ、五人の負傷せる戦友を援け帰った。彼はいかなる場合にも死を顧
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