妻と呼ぶことを許せ。御身の父の仇たるを秘して、御身と契りを結ぶことは、余の潔しとせざるところなり。乞う諒とせられよ。余の死に依りて、讐は消えたらん、御身を妻と呼ぶことを許せよ。余は、上官に対する遺言書に、御身を妻と申告し置きたれば、余の所持金及び官よりの下賜金は凡て、御身の所有となるべし。万之助殿と共に、幸福に暮さるべし。良縁あらば、嫁がれて可なり。
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[#地から1字上げ]新一郎

 万之助とお八重とは、新一郎の死床で、相擁していつまでも、泣きつづけた。



底本:「菊池寛 短編と戯曲」文芸春秋
   1988(昭和63)年3月25日第1刷発行
入力:真先芳秋
校正:大野 晋
2000年8月26日公開
2004年2月14日修正
青空文庫作成ファイル:
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