見舞かたがた、新一郎はお八重姉弟の様子も知りたく、一度高松へ帰省したいと思ったが、頼母を殺した記憶が、まだ生々しいので、いざとなると、どうしても足が向かなかった。
 明治五年になった。その年の四月五日であった。新一郎が四時頃役所から帰ると、出迎えた女中が、
「お国から、お客様がお見えになっております」といった。
「国から客! ほほう、なんという名前だ」
「成田様といっておられます」
「成田!」新一郎は、懐かしさと恐怖とが、同じくらいの分量で胸に湧き上った。
 居間に落ち着いてから、女中に、
「こっちへお通し申せ」と、いった。
(万之助だろう、万之助も今年二十二か、そうすればお八重殿は二十三かな)
 と、思いながら、待っていると、襖が開いて、頭を散髪にした万之助が、にこにこ笑いながら現れた。
「よう」新一郎も、懐かしさに思わず、声が大きくなった。
「お久しぶりで!」万之助は、丁寧に両手をついた。そして、
「姉も同道しておりまする」と、いい添えた。
「お八重殿も!」
 新一郎は、激しい衝撃を受けて、顔が赤くなったのを、万之助に見られるのが恥かしかった。
「さあ。どうぞ、こっちへ!」新一郎は、座蒲団を、自分の身近に引き寄せた。
 お八重が、襖の陰から上半身を出して、お辞儀をした。お八重が顔を上げるのが、新一郎には待ち遠しかった。
 細く通った鼻筋、地蔵型の眉、うるみを持ったやさしい目、昔通りの弱々とした美しさであったが、どこかに痛々しいやつれが現れていて、新一郎の心を悲しませた。
 姉弟は、なかなか近寄ろうとはしなかった。
「さあ。どうぞ、こっちへ。そこでは話ができん。さあ、さあ」
 自分が敵であるという恐怖は薄れ、懐かしさ親しさのみが、新一郎の心に溢れていた。
「貴君方の噂も、時々上京して来る国の人たちからもきき、陰ながら案じていたが、御両人とも御無事で、何より重畳じゃ」
「お兄さまも、御壮健で、立派に御出世遊ばして、おめでとうございます」
 昔通り、お兄様と呼ばれて、新一郎は涙ぐましい思いがした。
「今度は、いつ上京なされた?」
「昨日参りました」
「蒸汽船でか」
「はあ。神戸から乗りまして」
「それは、お疲れであろう。お八重殿は、一段と難儀されたであろう」
 初めて新一郎に言葉をかけられ、お八重は顔を赤らめて、さしうつむいた。
「只今は、どこに御滞在か」
「蘆沢様に
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