とですよ。裕福なればこそだ」といったとき、吉良上野がはいって来た。
「浅野殿の今度の見積りだが、今拝見したが、私には分からん。肝煎指南役が一つ!」
 畠山が書付を、吉良へ渡した。
「なかなか早いな。どうれ」
 吉良は、じっと眺めていたが、
「諸事あまりに切りつめてあるようじゃが」と、内匠頭の顔を見て、
「これだけの費用じゃ、十分には参らぬと思うが」と、つけ足した。
「七百両がで、ございますか」
「そうだ」
「しかし、これまでのがかかりすぎているのではありませんか、無用の費《ついえ》は、避けたいと思いますので」
 上野は、じろっと内匠頭をにらんで、
「かかりすぎていても、前々の例を破ってはならん。前からの慣例があって、それ以下の費用でまかなうと、自然、勅使に対して失礼なことができる」
「しかし、礼不礼ということは、費用の金高にはよりますまい!」
「それは理屈じゃ。こういうことは前例通りにしないと、とかく間違いができる」
「しかし、年々出費がかさむようで……」
「仕方がないではないか。諸式が年々に上るのだから、去年千両かかったものが、今年は千百両かかるのじゃ」
「しかし、七百両で仕上ります
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